21世紀にふさわしい会社づくりのために。Airbnbコミュニティのみなさまへのオープンレター

私は現実とは思えないほどの幸運に恵まれました。今こうしてメールを書いていること自体、まだ夢のようです。10年前にAirbnbをはじめたときには、ジョーとふたり、家賃も払えなくて大変な状況でした。そこでエアーベッドと朝ごはんだけの「AirBed & Breakfast」でよければ誰か泊まりにきてくださいとネットで試しに募集をかけてみたら、一面識もない僕らのために3人も泊まりにきてくれました。Airbnbは、そんなひょんなことからスタートした会社です。そんなアイディアで会社ができるわけない、「見ず知らずの他人を誰が信じるんだ!」と最初はみんなに言われました。あれから10年。Airbnbへの宿泊チェックインは通算3億回に迫る勢いです。

先日、Airbnbのこれから10年のことを考えていたら電話が鳴り、近しいアドバイザーから一生忘れられないありがたい話をお聞きしました。「一度、自分の志を系統立てておいた方がいいよ。そうすれば自分がいなくなってからも、ビジョンの妨げになるものを最小限に抑えていけるから」。本当にその通りだなと実感しました。自分たちが組織として何を追求していくのか、まとめておけるうちに文章にまとめておかないと。いつ何かあってからでは遅いと思い、さっそくこう自分に問いかけてみました。「もしジョーとネイトと自分が3人揃って明日死んでしまったら、Airbnbの志を後世の世界にどう語り継いでもらいたいんだろう?」以下にその結果、考えたことをご報告します。

Airbnbはまだ若く、土台のセメントも固まっていない成長期です。ひととおり何でもできるくらいには大きく成長しましたが、大きくなりすぎて身動きがとれないほどではありません。今までにない革新的なことにもまだまだ挑戦していけます。最近の世界を見回すと、あまりにもタイミングが良すぎて今の時代に生まれるべくして生まれた会社なのではないかと思うことさえあります。デジタルの殻に篭っている現代の人々は、人とのふれあいを求めていますし、組織に対する信頼はかつてないほど落ち込み信頼の危機が叫ばれる中、企業は社会的責任を果たすことがますます求められています。

我々が担うべき責任は、もはや社員や株主、コミュニティに対しての域に留まらず、次の世代に対しても責任を果たしていかなければなりません。企業は社会をよくする責任を担っているのです。Airbnbがこの社会的問題の解決に一役買える課題は実に幅広くあります。広いぶん、ずっと遠くの先々のことまで視野に含めた取り組みが必要です。

私が生まれてからテクノロジーは激変しましたが、企業の体質は昔とあまり変わっていないように思います。20世紀の旧態依然とした慣行の圧力に晒され、つい目先の利益に走ってしまい、やもすると企業のビジョンや長期バリュー、社会貢献は二の次です。これでは21世紀に生きる20世紀の企業と言われてもしかたありません。

私たちがデザインしたいのは、21世紀のニーズに対応する企業です。Airbnbには、次の2つの特質をもつ21世紀の企業を目指して欲しいと考えています。

 

  1. 無限の時間軸で考える
  2. 全ステークホルダーに奉仕する

無限の時間軸で考える

長期スパンで物事を考える企業はたくさんありますよね。だったらいっそ無限のスパンで物事を考えてみようじゃないかという発想で、これは個人的につきあいのある作家のサイモン・シネックと話している中から生まれました。「企業の目標はビジョンを実現することであり、ビジョンは登っても登っても辿り着けない山の頂のようなものなので、企業も永久の時間軸で物事を考えなければならない」という、サイモン得意の三段論法です。

多くの場合、企業は有限の時間軸をベースにデザインされています。有限の時間軸で動く企業は、競合に勝って短期目標を満たすことに全身全霊を傾けます。しかし現実のビジネスは決して有限ではありません。スポーツと違って、試合の残り時間が電光掲示板で表示されることもなく、勝ちも負けもない。あるのは、いかに長く存続し続け、変化し続けていけるのかという己の持久力だけです。無論、明確なゴール設定が重要ではないと言っているのではないし、危機意識を捨てろとか、難しい決断を先延ばしにしていいと言っているのでもありません。短期の目標達成はもちろん重要です。ただ、それはビジョンの実現に近づくのなら、という条件付きです。ここが重要なポイントで、サイモンが言うようにわれわれが全身全霊かけて目指すべきものは山の頂であって、山の途中の休憩小屋ではありません。

企業としてやるからには「次の四半期をどう乗り切るか」ではなく、「次の世紀までどう生き残るか」を視野に入れる会社でありたい思います。21世紀の企業もやがては22世紀の企業になる。そうなるために今、何をなすべきなのか。こうして無限の時間軸で物事を考えれば、企業はもっと思い切ったことができるし、もっと自分のつくるものに責任をもって、息の長い変化を創り出すことができると思うのです。

  • 以上の発想を実行に移すためのさまざまなアクションプランが、来る2月22日よりスタートします。無限の時間軸を視野に入れながらサービスを抜本的に改善し、ホスト主導の世界をエンパワーするプラン第1弾をこの日発表しますので、ご期待ください。

全ステークホルダーに奉仕する

「企業はなんのために存在するのか?」と問われたら、自分は迷わず「ビジョンをかたちにするためだ」と答えます。しかしそれだけでは足りません。ビジョンを追求しながらも、それが社会のプラスになるかどうかを常に確認していかなければただの独りよがりで終わってしまいます。つまり、企業としてのAirbnb(社員&株主)、コミュニティとしてのAirbnb(ゲスト&ホスト)、Airbnbを取り巻く世界。この3つのステークホルダーのことを第一に考え、それぞれの最善の利益のために奉仕する覚悟がないと、企業として固まっても何の意味もないのです。

21世紀の企業として生き残っていくためには、3つのステークホルダーのバランスをうまく図っていくことが大切です。たとえば企業としてのAirbnbは、バリュー主導で動き、確固たる信念と思いやりの心で邁進し、付加価値の高い事業の創出にも努めなければなりません。Airbnbはコミュニティのホストをパートナーと見なして対等な関係を築き、ゲストが世界中どこに行っても「自分の居場所がある」世界を実現します。そして地域の活性化に奉仕し、ダイバーシティと異文化理解を世界に広めます。株主への奉仕とは、取りも直さず自分たちの至らない点を正直に伝えることにほかなりません。まだ完璧とは程遠い段階なので。こうした動きの中で特に最近注力しているのは住宅不足に悩む地域の対応で、これはAirbnbコミュニティとともに支援に取り組んでいます。

  • 全ステークホルダーへの貢献度を把握する目安として、3月には創業以来初の年次株主レポートを発行し、全ステークホルダーに対して自らに課す責任の指針を明文化する予定です。企業が株主&投資家様に財務状況を説明する年次報告書と同様に、21世紀の企業に向けた取り組みについてもAirbnbは数値目標を立て、達成度を報告していきます。

新役員のご紹介

21世紀の会社を実現するためには、21世紀のビジョンを実践し、志を組織に浸透させる歯車となる役員会が必要です。そこでAirbnb初の社外取締役にアメリカン・エキスプレスのケン・シュノールトCEOを新たに迎えることになりました。Airbnbの基盤は信頼です。ケン率いるアメリカン・エキスプレスは世界有数の信頼ベースの企業であり、168年近くもの長い年月を生き延び、イノベートし続けてきた実業界の大先輩です。ケンとはすでに21世紀のビジネスモデルのこと、その中でインフラとしての信頼が果たすべき役割りについて話を進めています。彼は、企業にバリュー、キャラクター、専門性が今ほど強く求められている時代はないという深い信念の持ち主でもあり、以下のような言葉には教えられるところ大です。「企業が存在するのは、社会に生かされているからであって、存在するのが当たり前のような顔をしてあぐらをかいてはいけない。生かされている自覚をもって、社会に恩返しする責任と使命を果たしていかなければならない」

次の10年、その先

Airbnb創業から10年。見ず知らずの人同士が数百万人も泊まり合う、そんな夢物語がよくぞまあ実現できたものだとつくづく思います。もっともAirbnbが会社として果たした役割など微々たるもので、実現できたのはひとえにホストとAirbnbコミュニティの自主的な取り組みのおかげです。そこから学ばせていただいたことは次の2つです。

  1. 人は本来、善である
  2. 人は99%、同じである

人が根源的に善であり、ほぼほぼ同じだとするならば、そこから生まれるものは空き部屋に泊まり合うサービスの枠にとどまりません。あらゆる人がつながる世界がその先に見えてきます。そこでは、どんなに遠くまで旅しても「おかえり」と迎えてくれる仲間がいます。家が住宅という箱を離れて、世界が家になる未来。都市という都市が村になり、街区という街区がコミュニティになり、食卓という食卓がちいさな外交テーブルになって豊かな対話が溢れ、強く願えばどんなことでも叶う。これがAirbnbがめざす魅力的な世界です。ビジョンが遠大すぎて辿り着けない山かもしれませんが、一生をかけてでも一歩ずつ頂上を目指していきます。

– ブライアン・チェスキー

Airbnb共同創業者兼CEO兼コミュニティ・ヘッド